「紅茶」のこと、知っているようで知らない身近な飲み物の一つだと思いますが、紅茶に関する基本的なことについて、確認しておきましょう。
紅茶とは何か
漠然と、飲み物、お茶の種類の一つという程度の説明が手っ取り早い紅茶の説明ですが、もう少し詳しくいうと、紅茶はカメリア・シネンシスという茶の木から作られます。
カメリア・シネンシスは学名で、チャノキ(茶ノ木)というツバキ科ツバキ属の常緑樹のことをいうそうです。
同じように茶葉から作られる緑茶、ウーロン茶も、チャノキから作られるということです。
つまり、茶葉を摘むというところまでは同じで、そのあとにどのように加工、変化させていくのかにより、紅茶や緑茶になっていくのです。
紅茶も緑茶も元(茶ノ木)は同じ
茶葉の分類としては、主にインド種と中国種に分かれます。
インド種
インド種はアッサム種ともいいます。縦が12~15せセンチ、横が4~5センチの大きな葉っぱのかたちが特徴で、葉先が尖り、淡い緑色をしています。
表面が凹凸で、繊維は荒く、熱帯産なので寒い地域では育たないようです。
故に、熱帯の地域ならではの強い日光で渋みのタンニンが生成されるので、紅茶に向いています。
中国種
一方で中国種は、インド種の半分ほどのサイズで、濃い緑色で表面はつるりとしています。
紅茶の原材料となる樹は、ツバキ科の常緑樹で、原産地が中国雲南省のチベット山脈の高地、中国東南部の山岳地帯が発祥とされています。
日本のお茶も中国種です。
紅茶や緑茶に成る分かれ道は”発酵”
紅茶や緑茶に”成る”運命が決まるのは、発酵のタイミングです。
その発酵も次の3つに分かれます。
①不完全発酵茶
もんだあとの茶葉を、蒸す、炒ることで発酵を防ぎ、本来の緑色に近い色合いで仕上げます。(自然発酵は少し起こります)
日本茶はこの不完全発酵茶です。清茶(台湾の薄いウーロン茶)、ロンジン茶(中国の緑茶)もです。
②半発酵茶
時の通り半分の発酵、つまり発酵を途中で止めます。
少しだけ発酵させた状態となり、中国茶(ウーロン茶)はこの半発酵茶です。
希少価値の高い、白茶(パイチャ)もです。
③完全発酵茶
十分に発酵させたのが完全発酵茶です。紅茶がこれに分類されます。
深い茶色で、それが紅茶のきれいな水色や香り、渋みを生成します。
日本茶、中国茶、紅茶を分類させるのは発酵の強さなのです。
茶葉が摘まれているところはどこなのか
インド、スリランカ、アフリカ、インドネシアなど、主に温かい地域で紅茶は作られます。
特にインド、スリランカが有名で、産地名がそのまま茶葉の名前に含まれるくらいです。
ほかにも、紅茶に香りをつけたフレーバーティー、さまざまな茶葉をまぜたブレンドティーがあります。
同じ産地であっても、地域、摘まれた季節、年によって香味は変わります。
代表的な産地を以下に挙げます。
ダージリン:インドの高級茶葉です。季節ごとでさまざまな色味があり、価格も種類も幅広く定番な人気の茶葉です。
アッサム:コクの強い味で、濃い赤みが特徴です。ミルクティー用の茶葉といえば、まずアッサムが定番というくらいです。
ウバ:スリランカの名産地です。強めの香味があり、生花のような爽やかな香りをを持つ茶葉もあります。
ジャワ:インドネシアのジャワ島で生産され、渋みも少なくやさしい香味で、ブレンドティーに多く使われます。
ケニア:アフリカにおける大産地です。やわらかな渋み、コクがあるのが特徴です。
紅茶の製造方法
紅茶を嗜む際、ほとんどが茶葉なりティーバッグなりに製品化された紅茶を味わっていると思いますが、その製品になる過程でどういった作り方をしているのでしょうか。
普段あまりそのプロセスを気にすることはないにしても、茶葉の大きさや形など、多少の違いがあることくらいは認識していますが、どういった工程を経て茶葉になるのでしょうか。
基本的にはオーソドックス製法とCTC製法の2つがあります。
オーソドックス製法
その名の通り伝統的に昔からある製造方法です。茶葉の形として、しおれたようになっているのがこの製法でできた茶葉で、以下が工程の概要です。
茶を摘む
↓
しおらせる(用語として、萎凋:”いちょう”)
↓
揉む(用語として、揉捻:”じゅうねん”)
↓
(ねじ切る場合もあり)ふるいにかける
↓
発酵
↓
乾燥
↓
区分けして完成
機械化は各工程にありますが、人の手が入り、茶葉そのものの要素が生かされます。
CTC製法
大量生産するために考案された作り方、丸いころころとした形の茶葉がそれにあたります。
押しつぶす=Crush、引きちぎる=Tear、丸める=Curlという3つの工程の頭文字をとり、CTCです。
この3工程を1つの機械で行うので、生産量と作業効率は上がります。
以下が工程の概要です。
茶を摘む
↓
しおらせる(用語として、萎凋:”いちょう”)
↓
ねじ切る
↓
つぶして、ちぎり、丸める(CTC)
↓
発酵
↓
乾燥
↓
完成
等級区分(グレーティング)
紅茶の茶葉には、等級区分(グレーティング)というものがあります。
一見、高級かそうでないかといった違いのように思いますが、実際はそうではなく、茶葉を均一な大きさにふるい分けて、同一形状に揃えた時の分類を表すものです。
つまり、サイズの違いがあるということになります。
大きい順にオレンジ・ペコー(OP)、ブロークン・オレンジ・ペコー(BOP)、ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス(BOPF)、ファニングス(F)、ダスト(D)が多く使われています。
しかし、大きさや形状に統一された規格はありません。
製茶工場でふるい分けるときに、メッシュという金網の目のサイズにより、太さや長さに違いが出ます。
ただ、グレードの呼び方と長さ、大きさ、太さについては共通の認識があります。
等級区分(グレーティング)の種類
オレンジ・ペコー(OP)
仕上がりの茶葉のサイズ:1~2cm
茶葉のサイズでは一番大きく、インドのダージリン、中国のキーマンがオレンジ・ペコーで多くみられます。
アッサム、ニルギリ、スリランカのヌワラエリヤやウバでも少量作られているようです。
中国語でディオペッポ(橙黄白毫)と表現され、橙黄は水色が透明度の高い淡い橙色、白毫はカップに注いだ紅茶の表面に細い綿ぼこりのような繊維が浮いている事を表しています。
白毫は、茶の新芽の部分の表面を産毛が覆っていて、これが浮かんで見えたものになります。
たくさんの芽が入った紅茶を表し、芽が小さく砕かれておらず、大きいまま混入しているということになります。
ブロークン・オレンジ・ペコー(BOP)
仕上がりの茶葉のサイズ:2~3mm
このサイズの茶葉は、主にスリランカ産の紅茶に多くみられます。
渋みの強い茶葉は、OPタイプでゆっくり抽出して渋みを緩め、旨味を引き出しますが、茶葉の渋みが中程度、抽出時間を短くして強い香味を出す場合、小さいサイズで細かい茶葉の方がより引き出しやすくなります。
ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス(BOPF)
仕上がりの茶葉のサイズ:1mm
ブロークン・オレンジ・ペコー・ファニングス(BOPF)は、ブロークン・オレンジ・ペコーをふるいにかけて、メッシュから落ちた1mm程度の細かい茶葉を集めたものになります。
ブロークン・オレンジ・ペコーの中には、芽の部分も多く含まれていることから、良質でグレードは細かい表示になりますが、上質茶として扱われることもあります。濃厚で渋みは強いです。
ファニングス(F)
ブロークン・オレンジ・ペコー(BOP)下のメッシュの下のふるいわけで集められた1mm程度の細かい茶葉をファニングス(F)と呼びます。
渋味は強いですが、抽出が早くミルクティー用やティーバッグ用に利用されます。
ダスト(D)
意味だけであれば、ゴミやチリ、ホコリとなりますが、紅茶においては茶葉のふるい分け工程で一番下のメッシュを潜り抜けて落ちた粒状の細かい茶葉のことをいいます。
風味はきちんと紅茶になっており、強い酸味とコクも特徴です。
ティーバッグ用に主に利用されます。
上質な茶葉といえるのは
等級区分は、品質の高低を示すものではありませんが、上質にカテゴライズされる紅茶はきちんとあります。
茶の新芽だけを摘み、ゴールデンチップやシルバーチップと呼ばれるものです。
シルバーチップは、伸びて産毛に覆われ、芽を乾燥させると銀色に光ることからきていて、ダージリンやアッサムで、春先に摘まれることが多く、ゴールデンチップも芽の部分ではありますが、時期が異なる初夏や秋摘みの茶葉は芽の生育がよく、太く長く成長しており、この部分を黄色みがかった金色に見えることからきています。
チップだけを集めるのは、量が少なく希少価値が高いことで、幻の紅茶といわれています。
旨味や渋み、香味の影響は、芽だけでなくとも、芽がどれほど含まれているかで出ます。つまり、全ての茶葉の中に芽は一緒に混入されています。
上質且つ高級な紅茶の条件として、ゴールデンチップやシルバーチップが多く混ざっていることがあげられています。
紅茶製品の物流
生産国内で流通する原料茶、消費国内での最終製品という大きく2通りに分けられます。
生産国からの物流
中心となるのがティーオークションで、近年重要性を増しているのがプライベートセールというものです。
ティーオークション
品質や値段などを一定に維持しつつ、自社の戦略に合致した競争力のある製品を供給する目的で、”合目的的にブレンド”をするため、”公開された原料茶の自由市場”が必要になってきました。
かつてはロンドンやアムステルダムなど、茶貿易の中心都市でオークションが開催されていましたが、後年には、産地に近いカルカッタ、コロンボ、ジャカルタといった場所に補助的オークションが設けられていました。
しかし、近代は旧植民地だった国々は独立し、紅茶そのものが全世界的な商品になって、世界中で飲まれるようになりました。
今では生産地オークションのみが現存しています。
ケニアのモンバサがオークションが多いとのことです。
プライベートセール
特殊茶(スペシャリティ・ティー、オーガニック・ティーなど)が、ティーオークションに上場される前に”オークション・ブローカーズ”を通し、直接の買い付けの交渉を許可されているのがプライベートセールです。
日本の紅茶の物流について
我が国への紅茶輸入統計では、バルク(散茶)が9割、3kg以下の個包装紅茶が1割という割合になっています。
紅茶製品の輸入形態は、以下のようになっています。
また、原料茶・ブレンド茶の国内流通は次のようになっています。
流通はあくまで平時であることが前提ではないかと思われます。
というのも、昨今の世界情勢が不安定故に物流の流れはできていたとしても、生産国の経済や治安の状況によるところもあるのではないか、と破産宣言をしたスリランカ(2022年)の状況が気になるところです。
ミルクティー論争
17世紀から認識されていた紅茶は、21世紀になった現在は成熟された人々の嗜好品であるという認識のイメージが強いのですが、そんな紅茶にも長らく論争となっていることがあります。
ミルクティーを作る際の、ミルクが先か紅茶が先か、です。
実はジョーク?
詳しいことは、『紅茶専門店 ティーズリンアン 店主のブログ』さんで書かれているので、確認してもらえればと思いますが、英国王立科学協会という協会が正式にリリースしたとされる資料から、結論としてはミルクが先のようです。
紅茶を先に入れ、ミルクを後から入れると、牛乳タンパクに変化が起き、クリーミーさや香りが損なわれるとのことで、先にミルクを入れ、後から紅茶を注げば、温度変化が少しずつすすむので、牛乳タンパクに変化は起きないのだそうです。
しかし、結論としてはミルクが先ということですが、実はこれはジョークなのではないかということも言われていますね(笑)
実際のところは?
長年の論争に決着? 紅茶のミルク 「最後に入れる」派が約8割 英調査
リンク先の記事がいつのものかはわかりかねますが、調査会社のユーガブというところが調べたところ、英国のにおける実に8割近くがミルクは後に入れるのだそうです。
ダントツですね。
作家のジョージ・オーウェルは、1946年のエッセー「一杯のおいしい紅茶(A Nice Cup of Tea)」の中でも取り上げていて、「この議題に関しては、おそらく英国のどの家庭にも2つの流派が存在する」と記しているようです。
ジョージ・オーウェルを支持してのことではないかもしれませんが、世間ではミルクが後なんですね。
個人的には
私個人としては、紅茶が先でミルクが後、というのが多いですね。
別にジョージ・オーウェルに倣ってでもなく、英国王立科学協会に反発して、というわけではく、感覚的なものとして日常的にそうしています。
ミルクティーといっても、ベースに紅茶(ブラックティー)があるわけなので、そのベースが損なわれないようにと思い、ミルクが後です。
しかし、気分にもよるところがあり、ミルクを多めで飲みたい茶葉もあったりすると、先だとか後だとかではなく、いかに自分好みのテイストになるかに無意識に重点を置いていると思います。
科学的な公式な実証データが、もしかしたらどこかで揃っているかもしれませんが、結果的に美味しいミルクティーを飲むためのことを追求するのに、後か先かは茶葉によったり、アイスやホットなのか、はたまた好みによってパターンがあるのかもしれませんね。
先か後かも含め、ミルクティーの美味しさを求めるために、いろいろと試すことが紅茶を楽しむことでもあると思います。
つまり、好きなようにしてミルクティーを楽しもうってことでいいんじゃないですかね!
ちなみに、”ミルクティー”は和製英語です。
正式には、ティー・ウィズ・ミルク(Tea With Milk)、またはシチュード・ティー(Stewed Tea)といいます。